■放送15年越しの宿題と、その次
報告案が出ました。
経営の選択肢を拡大すべく制度を見直す。
ハード面、コンテンツ面、経営面の柔軟性を高める。
政策の方向は以下のとおり。
賛成です。よくまとめられました。
1.ハード共同利用をNHKと民放の共同出資も含め検討する。
2.IP・クラウド化も選択肢となる。
3.IPユニキャストでの中継局代替もあり得る。
4.マスメディア集中排除の地域制限を撤廃する。
5.複数地域での放送番組の同一化を可能とする。
6.NHKネット活用業務の位置づけを検討する。
これは、15年前の宿題の積み残しです。
2006年小泉内閣-竹中総務大臣での「通信・放送の在り方に関する懇談会」(いわゆる竹中懇)と、それを受けて第一次安倍内閣-菅総務大臣での「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」(ぼくは委員として参加)にて議論したことの先送り事項です。
竹中懇-法体系研は、通信・放送の法体系をガラポンにして、ハード・ソフト分離や通信・放送の共用電波利用を可能にし、通信・放送横断サービスを提供できるようにする規制緩和でした。
(著作権も一緒に処理を目論んだが、役所も異なり断念。)
経営の選択肢を広げる点は今回の検討会と方向性が同じ。
その後、新法体系を活かすサービスやビジネスは放送界からほとんど立ち上らず、15年間にデジタル市場はネットに持っていかれました。
海外から10年以上遅れでネット同時配信が実装され、業界から声が上がって昨年ようやく著作権法も改正され、制度的な手当は揃っていました。
今回の検討会が打ち出した方向は、その次の、つまり通信・放送融合後を見据えた、そして放送局にとってより難局の場面を乗り切るための、残された論点を救うものです。
放送制度の最終仕上げとも言えましょう。
報告案はハード効率化を「守り」、配信戦略を「攻め」とみる。
ネット配信はじめデジタルの導入で効率化を進めて伝送コストを軽減し、コンテンツ制作に注力できる環境を整備する。
認識は正しい。問題は、攻め姿勢の経営があるか。
ネットフリックスや韓国ドラマの攻勢に対抗する意思が問われます。
そして制度対応は、攻めの経営を下支えする柔軟化であり、全て進めればよい。
ここまで手つかずだったのは総務省の不作為ではなく、業界の実態の弱さでした。
いよいよ官民の姿勢が明確になったわけです。
個別施策にコメントします。
1.ハード共同利用:NHK・民放共同出資
竹中懇当時、ハードソフト分離に民放は表向き反対していたが、当時の広瀬道貞民放連会長はぼくをこっそり呼んで「地域の鉄塔を共同で持てるってことだよな」と正しく理解していた。具体設計すべし。その際、通信会社などを含む広い座組がポイントになろう。
2.IP・クラウド化
英国はBBC民放ともハード・ソフト分離のうえで全IP化、クラウド化して、有線・無線、放送・通信をミックスして伝送している。コスト面からも当然の方向となる。英国はそれを外資(スウェーデン)企業に行わせているが、日本は放送安保をどうとらえるかが論点となる。
3.IPユニキャストでの中継局代替
放送制度上も著作権法上も、マルチキャストかユニキャストかというネットの伝送方式で適用を違えるという、小手先の対応をしたことが日本の制度もビジネスも歪めることになった。いい機会なので、技術方式と制度適用の関わりを全面的に見直したらよい。
4.マス排の地域制限撤廃
5.複数地域の番組同一化
マス排と地域限定は放送の「強さ」を背景とした規制だが、ネットが放送の広告収入を上回り、外資の攻勢もある中で、放送の地位が相対化し、国内業界を縛る意味が見直される状況。緩める方向は妥当。いずれ圏域免許の電波制度も見直し対象となろう。
6.NHKネット活用業務の位置づけ
NHKのネット活用は補完業務でなく本来業務とし、英BBCや中国CCTV並みのデジタルメディアになるべき。というのがぼくの持論で、危険視されておりますw 1-3の事項もNHKが先導してやっつけてくれればよい。
http://ichiyanakamura.blogspot.com/2022/06/nhk.html
以上、報告に異論はなく、政策の実装を期待します。
でも2点、不満アリ。「世界」と「データ」への言及が乏しいことです。
まず世界。
米中韓など海外メディアが激動する中、日本はどういうポジションで、どういう戦略か。
日本の特異な制度をどうすべきか。
認識が乏しい。もはや国際問題ですぞ。
そしてデータ。
通信・放送の区分より、データの活用・非活用が今日の課題。
ネットメディアがデータ事業化しているのに対し、放送はデータを使えていない。
通信融合に10年遅れたテレビは、データ融合でも10年遅れるのではないか。
その問題意識も読み取れません。
持ちこたえてきた放送がとうとうきしむ音を立て始め、危機感が表立ってきた。
それを制度に反映させるのは妥当です。
ただ、その前に問うべきは各社の戦略。
制度を整えても経営が動かなければ穴が空いたまま、というのがこの15年の教えでしょう。
これを受け各社はどうしますか。それを聞きたいです。