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Channel: Ichiya Nakamura / 中村伊知哉
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文化☓経済というお題目にどう応える

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■文化☓経済というお題目にどう応える


文化庁文化審議会に新たに文化経済部会が置かれ、文化と経済の好循環を目指すこととなりました。

文化政策に経済を取り入れる。文化芸術の専門家ムラに外の風を吹き込むものです。

ぼくはグローバル展開WGに参加して、文化の世界展開策を論じました。


美術館・博物館のグローバル化は重要な課題。

パリにしろロンドンにしろNYにしろ、観光のメインに美術館を据えるのはごく普通のことだが、日本に来る外国人がどれだけ美術館を目的にしているだろうか。

これは同じ文化審議会の博物館部会でも議論したいテーマです。


文化政策ではフランスと韓国が際立っています。

いずれも官主導で、資金も投じています。

日本も政策の優先度を高めて資金を投入すべき。

他方、フランスはハイカルチャー+インバウンド重視、韓国はポップカルチャー+アウトバウンド重視。

戦略は異なります。日本は韓国型が適していると思います。





ぼくが強く主張したのは、文化芸術のスコープを広げ、従来の芸術=ハイカルチャーから、ポップカルチャーやデジタルによるUGCの全体を政策領域にすべきという点です。

政策のアプローチは異なるが、全体のポートフォリオをみながら、政策目的に応じて、国の施策を考えていくべきだと。


世界に浸透している日本のコンテンツは圧倒的にアニメ・ゲームであり、日本文化はそれを通じて理解されている。

最も著名なアーティストの一人は初音ミクで、デジタルのUGCが生んだもの。

いずれも富裕層ターゲットではない。

この実態を踏まえて施策を打つ必要があります。


欧米アジア、イスラムからアフリカに至るまで、世界の若年層が同時代性を持って共通に語れる話題はディズニーを除けば日本のアニメ・ゲームをおいてない。

知っている日本のアーティストの名前を挙げてもらえば、アニメ・ゲーム作家とゲーム音楽の作曲家。

その状況を認識した上で施策を講ずべきです。


世界のオタク系の研究者からは、日本のポップカルチャーは、人種、宗教、政治体制などの枠を超えて世界を融和させるという評価を受ける。

その値打ちを自ら認識したい。

この主張は容れられ、広範な文化の政策を扱うこととされ、さらに、ソフトパワー、地球課題解決という大きな構えで論じられました。





報告レポートは、人材の育成・確保を主要な課題に位置づけています。

その人材像の課題は、制作する人はいる・育てられているのだが、それをプロデュースする、マネージする、発信する人がいないという点。

これは知財本部や経産省などでも従前から指摘されてきたこと。政策の融和が必要な事項です。


となると、美大や映画学校をどう強化するかというかつての課題を超えて、経済学部やMBAコースにどう文化産業に向き合ってもらうか、という方向です。

この報告書を読んでもらう相手は誰なのか、を戦略的に考えなければなりません。


デザイン思考はかなり経営層にも認識されるようになりました。

そして今、アート思考やアート経営が経営のバズワードになっています。

世界の経営者はなぜアートを学ぶのか、という特集を雑誌が組んだりしています。

経営者が同意・賛同するところまで政策をブラッシュアップしたいです。


文科省や在外公館、関係機関の理解増進や対応強化ということも強調されています。

すると逆に、そういう法学部・経済学部の集まりに、デザインやアートをどう学んでもらうのか、あるいはデザイナーやアーティストをどれくらい雇ってもらうのか、という話になってくる。

このあたりは政策の発想の転換が必要です。


「文化経済」という政策は未成熟。ようやく発足という段階です。

これを文化芸術の専門家がムラで発信するだけでは伝搬力がなく、外側のかたがたに重要性を認識をしてもらう必要があります。

最大の課題は政策プロモーションでしょう。





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