■紛争を念頭に「人権と国家」
筒井清輝スタンフォード大学アジア太平洋研究所APARC教授著
「人権と国家」
国家が自らの権力を制約する人権システムの発展を許した国際政治のパラドック
スを解く。
ロシアの侵攻直前、22年正月に書かれた、タイムリーにもほどがある、いま読むべき本。
今次の紛争を念頭に、読み進めてみます。
・二次大戦では5-8千万人の犠牲者のうち4-5千万人が民間人だった。
・当時、米(日本人収容)、英(植民地対応)、ソ(スターリン圧制)に対し中国が人権に最もコミットしていた。
→民間人に対する残虐さや、国家の態度は、西も東も一貫性はなく、今も確固たる信条とはなってないのでしょう。
・911後アメリカによるイラク侵攻に国連決議はなかった。
・キューバグアンタナモ収容所やイラクアググレイブ刑務所での虐待をアメリカは正当化した。
→今回ぼくがモヤモヤするのは、まだこれを消化できないでいるから。
20年前にアメリカに賛同した日本がロシアを叩く正当性はどれほどあるでしょう。
ロシアのウクライナ侵攻で制裁を受けるのはロシア。
アメリカのイラク侵攻で責めを負ったのはイラク。
ロシアのシリア内戦介入ではシリアが責めを負った。
イスラエルのパレスチナ侵攻ではパレスチナが負った。
91年イラクのクウェート侵攻ではイラクが負った。
それぞれの正義や正当性をどううまく説明できるでしょう。
ぼくの手には余ります。
今後、日本が侵攻されたとして、その立ち位置や力関係によっては、救われず責めを負うこともあり得るってことです。
今回の件で欧米の態度はダブルスタンダードだと批判する中東の言い分に耳を傾けたくなります。
・国際人権システムはコソボや東ティモールで成果を上げた。状況を改善し得る。
・しかし安保理拒否権のカベにぶつかる。中ロの存在感が高まりアメリカが内向きになれば一層。
→今回まさにそのカベを露呈しました。
人権の行方はいかに。バックラッシュで終わるのか、次の希望を見せて決着するのか。
・ロシアの上からの抑圧は経験・ノウハウもあるが、アメリカの下からの反人権バックラッシュ・分断は対応が難しい。
→ぼくが気になるのは日本での下からの抑圧です。河瀬直美さんの東大祝辞に対する批判、JR恵比寿駅でのロシア語案内表示の撤去など、不寛容が漂い、他者への抑圧を正義とする空気。
先の戦争でも、戦争を望み侵攻に熱狂した国民がいて、民の間での監視と抑圧がありました。とぼくは学びました。
今回の紛争を捉えるに、ぼくたちは果たして進化しているのでしょうか。
ぼくたちが今回、学ぶべきは何なのでしょうか。
筒井教授とはスマートシティ竹芝の共同利用策などを相談しているのですが、本書と今回の侵攻で、国際政治を自分ごととしてとらえる大事さを認識しました。
筒井先生に教えを請いたく存じます。