■新版超ヒマ社会をつくる7 超ヒマつぶし戦略
近著「新版超ヒマ社会をつくるアフターコロナはネコの時代」。その一部を、しみ出します。
第4章「超ヒマつぶし戦略」から。
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○初音ミクになりたい
超ヒマ社会は、超エンタメ社会。スポーツも教育も含め、超ヒマつぶしがぼくらのテーマ。そのための場をつくる。それがCiP。だけど、それは竹芝じゃなくていい。超ヒマつぶしの街ができることが大事で、まずは第一弾が竹芝スマートシティ。地球のあちこちにできろ。そのコンセプトをなぞっておく。
CiP発足に当たり示したビジョンの冒頭は「シリコンバレーとハリウッドの日本版融合」。
起業が盛んなアメリカのメッカには西海岸のシリコンバレー、東海岸のボストン近郊ルート128がある。オープンなシリコンバレーに対し、ルート128は自前主義でクローズド。異なるアプローチでテック産業を生み続ける。ただ、テクノロジーにエンタメも融合させる。シリコンバレーとハリウッドがギュッと詰まったような存在になりたい。
だからといって、ハリウッドやシリコンバレーを作るのではない。ハリウッドやシリコンバレーの強みは、超一流のアーティスト、ギーク、そしてビジネスエリートの集積だ。これに対し、日本の強みは、正確で勤勉な大勢の職人の存在。さらに、コミケ、ニコ動、カラオケ、コスプレ、ゆるキャラ、B級グルメ、みんなが参加して生産し、消費される猥雑で混沌とした産業文化力がアイデンティティだ。これを活かし、増殖炉となる。[アイデンティティ](椎名林檎)
ソウル・CKL(コンテンツコリアラボ)のような研究教育拠点がある。フランクフルト・ECB(欧州中央銀行)のようにカネを握っている。カサブランカのマルシェのように混沌で、バルセロナの海辺のように水しぶきが上がって、ブエノスアイレス・カミニートのように音楽とダンスが常にある。そんなところ。
ミラノ・モンテナポレオーネのようにシュッとした男女が闊歩して、シンガポールのように政府が本気で、パリ・ラビレットのように子どもたちが駆け回り、京都・先斗町のように絶品のメシと酒があって、Big Hero 6 サンフランソウキョウのように西海岸と東京が混ざったようなクリエイティビティにあふれる区域。そんなところ。
みんなでつくるまち。秋葉原がモデル。秋葉原はもともとラジオのパーツの街だった。70年代に家電の街に変わった。80年代にパソコンの街に、90年代にオタクの街に性格を変えた。CiPはオープンしてから70年間続ける約束なのだが、「あそこはオープンしてから70年間ずっと変わり続けているよね」と言われるようになる。70年後ならぼくはまだ130歳だ。
CiPは、初音ミクになりたい。初音ミクは3つの要素から成り立っている。まず、ボーカロイドという技術。作詞作曲すれば専属歌手になってくれるというテクノロジー。第2にコンテンツ。16歳、158cm42kgのキャラクターのデザイン。
そして第3は、コミュニティ。ニコニコ動画にみんなが参加して育てあげた。作詞作曲してみた。歌ってみた。演奏してみた。踊ってみた。みんなが自分の能力を持ち寄り、育てた。技術、デザイン、そして参加型コミュニティの総合力が日本の強み。これを活かしたい。
竹芝はきっかけにすぎない。渋谷、池袋、羽田、品川など同様の開発構想が東京にもたくさんある。竹芝・羽田の間にはJR品川周辺の大開発が待つ。北上すれば秋葉原や東大に至る。墨田にはiUを置いた。豊洲や晴海もつながる。ベイエリア一帯のデジタル・ベルト構想が描ける。渋谷の再開発も賑やかだ。ソーシャルゲーム、J-Pop、ファッションが集結する町。東京をタテヨコに結んで、広域デジタル拠点を構成できないかと夢想している。
名古屋には巨大インキュベーション施設StationAiが稼働する。京都でも構想がある。映画業界や京大、立命館らが人材育成と産業支援の拠点を作るというCiPに似たプランが動く。かつてスタンフォード日本センターが京都に本拠を置いたのは、技術と文化が存在し大学との連携が盛ん、という特徴を見据えてのことだった。
万博がやってくる大阪でも大型のエンタメ拠点の整備が進んでいる。沖縄も同様だ。福岡は起業特区として先導的な役割を果たしている。そういう拠点との連携を進めて、点を線に、面にしていきたい。ポップ・テック列島を作ろう。
韓国にモデルがある。人材育成の「コンテンツコリアラボ」CKLと、起業支援の「クリエイティブエコノミーリーダー」CEL。韓国政府が大きな予算を使って運営している。産業界と政府とソウル市が連携して作ったメディア集積地「デジタルメディアシティ」DMCもある。CiP協議会は韓国政府・コンテンツ振興院と連携するため、ソウルで協定を締結した。
シンガポールに隣接するマレーシア・ジョホールバルの「イスカンダル」という開発地域では、政府がメディアの教育・研究拠点を整備している。ロンドン大学が中心的な役割を果たしていて、そこともCiPは協定を結び、連携することとした。スペイン・バルセロナと協定を結んだことは既に述べた。
何より一番の目標は、スタンフォード大学。大学がシリコンバレーのプラットフォームとして機能している。CiPもスタンフォードの研究所を誘致して、やりかたを学びたい。このようにして、東京、アメリカ、ヨーロッパ、アジアをつなぐハブになれるといい。
富国強兵に踏み出して以降100年余、敗戦で強兵の看板を下ろした。産業の発展という富国政策に邁進した。それはアジアの奇跡と称される成功を収めた。バブル後その地位は揺らいだ。が、文化大国として輝き始めた。戦後70年の平和主義や、311の震災時に日本社会が示した礼儀・秩序ともあいまって、トータルとして国際政治論にいう「ソフトパワー」を発揮している。
無論、産業界が培ってきた技術力、ものづくり力が失せたわけではなく、それらハード面の力と、コンテンツなどのソフト面の力との総合力が今の日本の資源だ。半世紀前の東京五輪や大阪万博で日本は復興と成長の姿を見せた。次の東京や大阪は、日本は、どのような姿を表すのか。