■新版超ヒマ社会をつくる6 超ヒマつぶし戦略
近著「新版超ヒマ社会をつくるアフターコロナはネコの時代」。その一部を、しみ出します。
第4章「超ヒマつぶし戦略」から。
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○ゲームはコロナにうってつけ
超ヒマ社会は、とてつもないスポーツ社会である。超ヒマになったら、めくるめくエンタメと、学問と、恋愛と、スポーツの時代となる。自分で体を動かして、汗をかくから楽しい。ロボット同士が戦っているのを見てもあまり興奮しない。汗をかけ。汗をかけ。手に汗を握れ。手に汗を握れ。そうだ、スポーツ、作ろう。
情報社会の新スポーツ、eスポーツ。格闘やカーレース、サッカー、戦略ゲームなど多種多様なジャンルがある。プロプレイヤーも出現、学校でのクラブ活動にもなり、野球やサッカーに並ぶ人気や知名度を持つスポーツになりそうだ。
産業としての期待が高い。2017年で世界市場は15億ドル、5年で1.5倍の成長率。オーディエンスは現在の2.6億人が5年後に5.6億人になると予想される。
スポーツとして認知されるようになった。2022年中国の杭州で開催されるスポーツのアジア大会での正式種目に決まった。2018年、ジャカルタのアジア大会では公開競技として開催された。サッカーの「ウイニングイレブン」で近畿大学の杉村直紀選手とN高の相原翼選手が金メダルを獲得した。国内では2019年の茨城国体で都道府県対抗の大会が開催された。
オリンピックの正式種目になることも期待されている。早ければ2024年パリ、遅くとも2028年ロスと噂される。東京五輪でも大会が開催されよう。ゲームが強ければ、国を背負って金メダル取ってヒーローになってプロになれる。
世界ではこの20年でアメリカや韓国が本場となって成長してきた。日本はゲーム大国でありながら、eスポーツ後進国だった。市場規模は世界の15分の1。プレーヤー 数は日本は世界の20分の1。
この大きな原因は、日本がゲーム大国だったことだ。任天堂・ソニーというゲーム機の巨人が1980~90年代に世界市場を制したが、それは家庭用のテレビ向け。世界はパソコン+ネット向けのゲームに傾いていった。日本は成功体験が大きすぎ、ネット対戦ゲームへの取組に遅れた。
でも2018年、日本はeスポーツ元年を迎えた。産業が芽生えた。賞金規制と団体乱立という2大障壁がクリアされたからだ。景品表示法でアマチュア向け賞金の上限を10万円とする規制が大型大会の開催を難しくしてきた。eスポーツ団体が3つあり、国際オリンピック委員会IOCに加盟するにはその統一が条件とされてきた。
2018年、まず3団体を統合し、日本eスポーツ連合 JeSUが発足した。ぼくが理事を務めたJeSPAも解散・合流。自分のクビを切るいい仕事をしたね!JeSUはプロライセンスを発行する。景品表示法の賞金規制をクリアできる。企業が資金を提供するプロチームや大型大会がセットされる。企業が安心して資金を投ずる環境が整った。複雑な方程式を解いた。[Complicated Game](XTC)
これを受け同年、セガやmixiなどが本格展開、Jリーグや日本野球機構(NPB)らもリーグを開催した。吉本興業は渋谷に拠点「ヨシモト∞ドーム」をオープン。日テレ、フジ、TBSなどテレビ局も番組を作り始めた。毎日新聞社は「全国高校eスポーツ選手権」を開催した。NTTはNTTe-Sportsを設立した。
しかしアメリカなど先進国との差は大きい。アマゾンが1000億円で買収したeスポーツ配信会社Twitchは視聴者数が世界で1日当たり1000万人に達し、全米でネットフリックス、ユーチューブに次ぐトラフィックを誇る。
全米大学eスポーツ協会によれば、アメリカとカナダではeスポーツプログラムを持つ大学が80校以上ある。米ユタ大学は「リーグ・オブ・レジェンド」参加チームに学費を全額免除。公立のカリフォルニア大学アーバイン校は325㎡のゲーム用アリーナを設置した。
韓国も力を入れている。韓国政府・ソウル市が産官連携で作り上げた町、ソウル・デジタルメディアシティDMCにCJメディア社が韓国最大のeスポーツ専用スタジアムを設置している。650席の会場は毎日、試合が組まれ、ケーブルやネットで中継。KT、サムソンなど通信、IT、メーカーがスポンサーだ。
日本もなんとかしたい。経産省とJeSUが「eスポーツ活性化検討会」を開き、報告をまとめた。eスポーツに関する政府系の報告は世界でも初だろう。ぼくが座長を務めた。霞が関からは経産省のほか、内閣府知財本部、総務省、消費者庁、文科省スポーツ庁も参加した。政府も正しく認識をしている。
eスポーツの市場規模。直接市場は現44億円を5年後の2025年に700億円、16倍にする。飲食・物販・教育など波及市場を含めると、現在の340億円を2025年に3000億円に成長させる。日本はゲーム市場に占めるeスポーツファンの比率が8%。これを韓国並み47%まで高めることが戦略。プロ野球並みのファン数、2500万人ぐらいにしよう、ということだ。
コロナが後押ししている。ゲームは人と物理的に接触することなく、他の人とコミュニケーションを生む娯楽。だからゲームはコロナにうってつけ。巣ごもりストレス解消。ゲームを目の敵にしてきた世界保健機構WHOも態度を変え、eスポーツを推奨している。視聴時間も飛躍的に伸びた。オンラインのイベントも急増した。
リアルスポーツの大会が中止になる中、既存のスポーツが代替策としてeスポーツを活用している。米バスケットNBAではケビン・デュラント、八村塁らが参加してゲームの腕を披露するトーナメントを開催。F1の「バーチャル・オーストラリアGP」ではフェラーリのシャルル・ルクレールが初参加し、いきなり優勝を飾った。プロテニスでもeスポーツ大会を開催し、ラファエル・ナダルら現役プレイヤーが参加している。
そして5Gが本格化する。遅延が許されない性質上、リアル会場での開催が当然だったeスポーツも、分散して対戦できる。世界の各地でスマホでバトルする。ゲームはクラウド化する。eスポーツの競技タイトルも、対戦方法も、その視聴方法も、大会の開き方もさまがわりしそうだ。ようやく産業として立ち上げる日本は、同時進行となるこの環境変化をどう活かそうか。
産業としてだけではなく、文化として、公益としてのeスポーツに着目して、経産省・JeSUの報告書は、教育分野での取組が重要と提言している。これを具体化するため、JeSUやiUらが連携し、「超eスポーツ学校」を開設した。eスポーツの教育への導入に関心を持つ大学から小学校までの学校と有識者・研究者によるコミュニティを形成する。
スタートラインに立った日本のeスポーツ。これからだ。