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Channel: Ichiya Nakamura / 中村伊知哉
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20年ぶりのドルドーニュ

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■20年ぶりのドルドーニュ
 

フォア・ド・カナール。フォアグラのガチョウじゃなくて、カモの肥大化した肝臓を、焼いて、酸っぱい木の実と、ハチミツのソースをまぶしたもの。地元ベルジュラックの赤を合わせる。これこれ。これだ。舌は、覚えている。20年ぶりにいただきました。



40年前のことは鮮明に覚えているのですが、20年前となると逆にあいまいです。そのころの記憶をなぞりに来ました。フランス南部、ペリゴール地方。フォアグラとトリュフの里。ドルドーニュ川の支流、ウィス川がせせらぐ村、ラカヴ。
 うねうねと、ゆるやかに、歩くように進む小川。右側は崖。左側はうっそうとした森。そこにぽつんとたたずむ一軒家の宿です。


ちょうど20年前、パリ滞在の仕上げに、幼い子どもたちを連れて訪れました。いいところだよ。とだけ聞いて、ろくに知識ももたずクルマでぶっ飛ばしました。当時はハンドルを握ると1日で1500kmぐらい走りました。長生きしないだろうからと、生き急いでいました。
 たどり着くと、そこは楽園でした。濃い緑、淡い緑を通す木漏れ日と、小川のせせらぎ。時が止まっている。天国に近い、と思いました。

 しかしその後、映像は脳裏にぼんやりしたままです。写真も撮っていませんでした。色彩、陰影は鮮やかながら、建物や造作ははっきりと思い出せません。川や木々の奏でる音、家族とのやりとり、そんなものがもっこりまだらになったひとかたまりの記憶。
 それを呼び覚ます、宿題。ですが現場の映像には裏切られました。宿は美しく改装され、川の造りにも手が加えられたようで、ぼくの中にあったまだらよりも、スマートな印象。ふむ、こんなところだったっけ。
 ところが、味覚は覚えていました。視覚より、聴覚より、味覚のほうが、こびりつくことがあるのですね。

ロカマドール。20年前のメモによれば、ここにも来たと。はい。この光景は記憶にあります。D46、D703、そんな山あいの道路名を頼りに、恐らくミシュランの地図を首っ引きに、たどりついたのでしょう。カーナビもなく、よく来たもんです。昔のほうが自分のリアル適応力はうんと高かったのでしょう。

ドンム。
ああ、山の上に着いて、このレストランにも入ったことを思い出しました。このたたずまいを見て、そうだ、キリキリに冷やした格別な白ワインを飲んだことを思い出しました。視覚が酒の記憶を呼ぶ。でもなぜこんな山で、わざわざ白を飲んだんだろう。山の上で魚を食ったのか? 思い出せません。

眼下にドルドーニュ川が悠然。

 



ラ・ロックガジャック。
20年前のメモには、ドンムの次に川下りとある。山上で飲んで、恐らくそのままクルマに乗って、ドルドーニュ川に下りたのだな。となると、小舟が出るのはこの村だ。ネットでは、フランスで最も美しい村と紹介されている。当時そんな知識はない。村の名も記録していない。

光景もよく覚えていません。酔い覚ましに乗り、強い日差しにきらきらする川面で、ぐっすり眠ったことは覚えています。天国に近かった。おやじが眠ってしまい、家族は大いに困ったことでしょう。酒の記憶は、視覚の記憶に勝ります。


今回は、川のたたずまい巡りでもありました。
CiPが水辺の賑わいをプロデュースする構想でもあり、20年間想っていた川をしっかり見ておこうと。
 べナック城からみたドルドーニュ川。

リムイユのドルドーニュ川。

 




トレモラのドルドーニュ川。

 




イル川の流れるペリグー。

 




ブラントームを流れるドロンヌ川。

 



ガロンヌ川が流れこむボルドー。

次は・・20年以内に来ます。記憶のあるあいだに。

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