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Channel: Ichiya Nakamura / 中村伊知哉
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白書「フィクションで描かれたICT社会の未来像」9/27

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■白書「フィクションで描かれたICT社会の未来像」9/27

(4)「マクロスシリーズ」~星間通信ネットワークの構築~進化する設定

 多くのSF作品は通信天国である。太陽系の果てから地球までの通信、あるいは恒星間での相互映像通信等、極めて高度な通信が行われているが、これらに説明が加えられていることはほとんどない。

 宇宙を舞台にした未来の物語を描く中で、通信技術に関して設定を作って説明を加えているのが、マクロスシリーズである。

 マクロスシリーズは、1982年に放送を開始したテレビアニメシリーズ「超時空要塞マクロス」とその続編作品や外伝作品を含む作品群である。「超時空要塞マクロス」、1994年に放送された「マクロス7」、2008年に放送された「マクロスF(フロンティア)」という3つのテレビアニメシリーズを中心にOVAシリーズや、1984年公開の「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」他の劇場用映画といった映像作品、小説、マンガ、ラジオドラマ等、幅広いメディアで長期にわたって展開されている人気シリーズのひとつである。

 マクロスシリーズでは、“可変戦闘機バルキリーの高速メカアクション”“三角関係の恋愛ドラマ”“歌”という要素が作品の重要な部分を占めているが、さらに挙げられる大きな特徴は精緻に描かれた世界観である。シリーズの舞台となるのは2000年代初頭から2090年にかけた地球を中心とした銀河系だが、長期にわたるシリーズ全般を通して壮大な架空歴史が構築されている。

 世界観のキーとなるのは、紀元前100万年に誕生した地球外生命体“プロトカルチャー”の存在である。このプロトカルチャーの流れを汲む異星の宇宙船が20世紀末の地球に墜落し、人類がこの宇宙船を分析することで、オーバーテクノロジーと呼ばれる技術を獲得し、科学技術に爆発的な進化がもたらされる。このオーバーテクノロジーの核となるもののひとつがフォールド(fold)系と呼ばれる技術群である。マクロスシリーズの中で宇宙船の航行に使われるフォールド航法は、超空間を経由することで目標への到達時間を短縮する航法で、いわゆる“ワープ”に近い技術である。

 マクロスシリーズは長いシリーズを展開する中で、初期の設定に様々な架空技術を加えており、このフォールドの技術は兵器にも転用されているが、1994年に放送された「マクロス7」からはこの技術を応用した“フォールド通信”という超高速大量通信システムが登場している。

 フォールド通信は、マクロスシリーズの作品世界の中で架空歴史が進み、技術の開発が進む中で作られた通信技術である。フォールド通信は、フォールド航法で転移させる対象を宇宙船でなく、電波として応用したもので、銀河系内でほぼタイムラグなしに交信可能な“ギャラクシーネットワーク”が構築されている。軍事用としてだけでなく、民間放送局の中継や音楽番組の放送がこのネットワークを通じて行われており、このネットワークに乗って銀河系全体に知れ渡ったアイドルも誕生しており、“歌”が作品の重要な要素となるこのシリーズの中で重要な役割を果たしている。

 最初のテレビシリーズ「超時空要塞マクロス」の冒頭、マクロスはフォールド航法に失敗し、月に向かう予定が冥王星の宙域に転移してしまい、地球との交信も不能になってしまう。オーバーテクノロジーを知るまでの地球人の行動範囲は地球の周辺であり、それより遠い場所からの通信手段が開発されていなかったためだ。

 人類が月に足を踏み入れた1969 年の時点で、月面で行動する宇宙飛行士の映像は地球に届けられている。無人探査機の地球からの操作、探査機からの映像や写真の送信については小惑星探査機「はやぶさ」を扱った映画作品でも紹介されており、まだ人々の記憶に新しい。木星、土星さらに海王星や冥王星への探査機も打ち上げられている。さらに、NASAが火星探査に使用している探査機ローバー“キュリオシティ”は、動画撮影も可能なカメラを備えている。

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