■白書「フィクションで描かれたICT社会の未来像」8/27
(3)「スター・ウォーズ」~印象的に描かれた三次元映像
ハリウッドでは、第二次世界大戦前から多くのSF映画が製作されてきた。とりわけ1950年代はSF映画ブームで、例えば、1951年にアメリカで公開され、日本では翌年に公開された「地球の静止する日(原題:The Day the Earth Stood Still)」は、地球にやってきた異星人と人類とのファーストコンタクトを描いた作品だが、この作品に登場する異星人のロボット“ゴート”は地球を滅亡させるまで止まることのない絶対の兵器として描かれている。
1955年公開の「宇宙水爆戦(原題:This Island Earth)」では、宇宙人が地球人の研究者たちに“インターロシュター”という相互映像通信機を送りつけ、彼らにこれを組み立てさせ、指示を送り、宇宙へと連れ去っている。また、1956年に公開された「禁断の惑星(原題:Forbidden Planet)」は、消息を絶った惑星移民団の捜索にやってきた人々と異星の超先進科学との出会いを描いているが、この作品に登場するロボット“ロビー”は、その後のアメリカ映画におけるロボットの原型のひとつとなったと言われている。
その後、1960年代に入って、SF映画の制作本数はやや減少するが、現代では再びSFやファンタジーといったカテゴリーの映画が世界的なブームとなっており、アメコミ作品を原作とした「アベンジャーズ」や日本では2014年から2015 年にかけて公開され、大ヒットを記録した「ベイマックス」等のSFアクションやファンタジーが全世界的に人気を集めている。こうした現代に連なるSF映画の中の記念碑的な作品となったのが、「スター・ウォーズ」シリーズである。
「スター・ウォーズ」シリーズは、地球や我々の未来を描いている作品ではないが、乗り物やロボット(ドロイド)、登場人物が使う道具等、様々な機器や技術を豊かなアイデアのもとに描いている。1977年にアメリカで公開、翌年に日本でも公開された「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望(原題:Star Wars EpisodeⅣ: A New Hope)」では、ホログラフィを使った三次元映像が物語のキーとして印象的に描かれている。
圧政で宇宙を支配する銀河帝国軍に対抗する共和国軍のリーダーの1 人、レイア・オーガナ姫は帝国軍に捕らえられるが、捕まる寸前に銀河帝国軍の宇宙要塞デス・スターの設計図とレイアの養父の友人であるオビ=ワン・ケノービに助けを求めるメッセージをロボット(ドロイド)のR2D2に託し脱出させる。ここでメッセージとして使われたのがホログラフィを使った三次元映像である。R2D2が伝えたのは『助けて!オビ=ワン・ケノービ。あなたが唯一の希望です。』と呼びかけるレイア姫の姿だった。
「スター・ウォーズ」シリーズでは、ホログラフィはまずこのように、三次元映像を記録し、再生するための技術として登場しているが、その後のシリーズの中では、長距離通信の手段としても使用されている。相互通信を行うときは、利用者同士がお互いの三次元映像を見ながら同じ部屋にいるような状態で会話することができる。
現代においては、三次元映像を使った演出は、様々なエンタテインメントの分野で見ることができる。世界的な大ヒットとなった2009年の映画「アバター」の記憶も新しい3D映画は、多くの作品が公開されている。また、3Dテレビも2010年以後、各社から発売されている。
大型イベントでの導入も広がってきており、例えば、2014年のビルボードミュージックアワードでは、2009年に亡くなったマイケル・ジャクソンが三次元映像で復活し、新曲に合わせて生バンドやダンサーたちと一緒にパフォーマンスを繰り広げ、観客を驚かせた。また、音声合成システムVOCALOIDから生まれたバーチャルアイドル初音ミクを主役としたライブイベント“ミクの日感謝祭”では、歌い踊る三次元映像のミクに生身の大観衆が応える未来的な光景が繰り広げられた。これらは、いずれも半透明スクリーンなどに三次元の映像を投影するホログラフィック・ディスプレイと呼ばれる技術で、海外での人気も高いPerfumeのステージにおいても使用されている。
しかし、「スター・ウォーズ」のように何もないところに三次元映像を映し出し、通信に用いる技術は現在のところでは、開発の段階にある。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の超臨場感映像研究室では、革新的な三次元映像技術による超臨場感コミュニケーションの実現を目指している。超臨場感映像研究室で電子ホログラフィを研究する大井隆太朗主任研究員は、ホログラフィは三次元映像の記録、再生方法として最も理想的だと言う。
人間はものを見るときに色々な手がかりで立体を認識します。両眼の視差、運動の視差、目の焦点調節(深い奥行き感)などがその手がかりですが、人の奥行認識の手がかりを完全に再現できるのがホログラフィという技術です。人が正面に座って見ている分には両眼の視差を手がかりとした二眼式で良いのですが、左右から回り込んで見てみると、二眼式では破たんしてしまいます。(大井氏)
図ホログラフィは静止画の分野で既に実現されていて、撮影されたり売られたりしているが、動画ホログラフィの実現にはホログラフィの電子化が必要で、この研究は国内外で行われているという。
デジタル的にホログラムを撮って、デジタル的に再生することが必要なのですが、難しいのは計算、表示をするために膨大なデータを使うことが必要だということです。(大井氏)
ホログラフィは、(光の回折という現象を用い、)1ミリあたり1,000本くらいの干渉縞に光を通すことで光を変調し、画像を映し出す。しかし、これを通信で行うためには膨大な情報量という問題を解決しなければならない。
あらかじめ出したい柄の回析パターンをコンピューターに計算させれば画像に合った縞を順次計算機が作っていきますが、テレビの1画素が0.3~0.5ミリなのに対して、ホログラムをテレビの視野角で映そうとすると、画面の大きさにもよりますが、少なくとも10億画素程度の情報を撮影し、電送し、再生しなければいけない。動画のホログラムやホログラムを電子化して送るということはまだ研究フェーズにあります。ただ、現在のスーパーハイビジョンの流れもあってどんどん画素が細かくなる流れもあるし、液晶分子のサイズは1ミクロンよりも小さいので、原理的にはホログラム用液晶の画素を作ることは可能です。そういう意味では情報量が膨大ということが、電子ホログラフィ実現の課題なのです。(大井氏)
前出したマイケル・ジャクソンのステージのように半透明のスクリーンにプロジェクターで投影する形式のものは、ホログラフィックと呼ばれていて、スクリーン面にしか映像が出ないので、CG的な演出テクニックを使うが、スクリーンから離れたところにちゃんとした映像を出そうとすると、そうした方式では出せなくなってしまう。ホログラムの場合は1ミクロンピッチの画素が必要ということでデータ量が多いので、10メートル四方の映像を作れと言われると難しい。両者にそうした長所、短所があるので、どちらかがなくなってどちらかが残るものではないという。
どういったことに使うかと言うと、通信に使いたい。革新的な三次元映像を使うことで、非常にリアルなオブジェクトや人を空中に浮かせ、コミュニケーションを豊かにすることを目指す。それがホログラムを通信に使うことのモティベーションです。(大井氏)
電子ホログラフィ通信の課題が解決し、実用化が進めば、三次元画像で演出したスマートフォンゲームや、商品の立体画像を映したeコマースサイトでのよりリアルなショッピング体験、まさに「スター・ウォーズ」の世界のような、通話相手をホログラム画像で表示したビデオ会議など、様々な状況での活用が期待できる。
(3)「スター・ウォーズ」~印象的に描かれた三次元映像
ハリウッドでは、第二次世界大戦前から多くのSF映画が製作されてきた。とりわけ1950年代はSF映画ブームで、例えば、1951年にアメリカで公開され、日本では翌年に公開された「地球の静止する日(原題:The Day the Earth Stood Still)」は、地球にやってきた異星人と人類とのファーストコンタクトを描いた作品だが、この作品に登場する異星人のロボット“ゴート”は地球を滅亡させるまで止まることのない絶対の兵器として描かれている。
1955年公開の「宇宙水爆戦(原題:This Island Earth)」では、宇宙人が地球人の研究者たちに“インターロシュター”という相互映像通信機を送りつけ、彼らにこれを組み立てさせ、指示を送り、宇宙へと連れ去っている。また、1956年に公開された「禁断の惑星(原題:Forbidden Planet)」は、消息を絶った惑星移民団の捜索にやってきた人々と異星の超先進科学との出会いを描いているが、この作品に登場するロボット“ロビー”は、その後のアメリカ映画におけるロボットの原型のひとつとなったと言われている。
その後、1960年代に入って、SF映画の制作本数はやや減少するが、現代では再びSFやファンタジーといったカテゴリーの映画が世界的なブームとなっており、アメコミ作品を原作とした「アベンジャーズ」や日本では2014年から2015 年にかけて公開され、大ヒットを記録した「ベイマックス」等のSFアクションやファンタジーが全世界的に人気を集めている。こうした現代に連なるSF映画の中の記念碑的な作品となったのが、「スター・ウォーズ」シリーズである。
「スター・ウォーズ」シリーズは、地球や我々の未来を描いている作品ではないが、乗り物やロボット(ドロイド)、登場人物が使う道具等、様々な機器や技術を豊かなアイデアのもとに描いている。1977年にアメリカで公開、翌年に日本でも公開された「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望(原題:Star Wars EpisodeⅣ: A New Hope)」では、ホログラフィを使った三次元映像が物語のキーとして印象的に描かれている。
圧政で宇宙を支配する銀河帝国軍に対抗する共和国軍のリーダーの1 人、レイア・オーガナ姫は帝国軍に捕らえられるが、捕まる寸前に銀河帝国軍の宇宙要塞デス・スターの設計図とレイアの養父の友人であるオビ=ワン・ケノービに助けを求めるメッセージをロボット(ドロイド)のR2D2に託し脱出させる。ここでメッセージとして使われたのがホログラフィを使った三次元映像である。R2D2が伝えたのは『助けて!オビ=ワン・ケノービ。あなたが唯一の希望です。』と呼びかけるレイア姫の姿だった。
「スター・ウォーズ」シリーズでは、ホログラフィはまずこのように、三次元映像を記録し、再生するための技術として登場しているが、その後のシリーズの中では、長距離通信の手段としても使用されている。相互通信を行うときは、利用者同士がお互いの三次元映像を見ながら同じ部屋にいるような状態で会話することができる。
現代においては、三次元映像を使った演出は、様々なエンタテインメントの分野で見ることができる。世界的な大ヒットとなった2009年の映画「アバター」の記憶も新しい3D映画は、多くの作品が公開されている。また、3Dテレビも2010年以後、各社から発売されている。
大型イベントでの導入も広がってきており、例えば、2014年のビルボードミュージックアワードでは、2009年に亡くなったマイケル・ジャクソンが三次元映像で復活し、新曲に合わせて生バンドやダンサーたちと一緒にパフォーマンスを繰り広げ、観客を驚かせた。また、音声合成システムVOCALOIDから生まれたバーチャルアイドル初音ミクを主役としたライブイベント“ミクの日感謝祭”では、歌い踊る三次元映像のミクに生身の大観衆が応える未来的な光景が繰り広げられた。これらは、いずれも半透明スクリーンなどに三次元の映像を投影するホログラフィック・ディスプレイと呼ばれる技術で、海外での人気も高いPerfumeのステージにおいても使用されている。
しかし、「スター・ウォーズ」のように何もないところに三次元映像を映し出し、通信に用いる技術は現在のところでは、開発の段階にある。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の超臨場感映像研究室では、革新的な三次元映像技術による超臨場感コミュニケーションの実現を目指している。超臨場感映像研究室で電子ホログラフィを研究する大井隆太朗主任研究員は、ホログラフィは三次元映像の記録、再生方法として最も理想的だと言う。
人間はものを見るときに色々な手がかりで立体を認識します。両眼の視差、運動の視差、目の焦点調節(深い奥行き感)などがその手がかりですが、人の奥行認識の手がかりを完全に再現できるのがホログラフィという技術です。人が正面に座って見ている分には両眼の視差を手がかりとした二眼式で良いのですが、左右から回り込んで見てみると、二眼式では破たんしてしまいます。(大井氏)
図ホログラフィは静止画の分野で既に実現されていて、撮影されたり売られたりしているが、動画ホログラフィの実現にはホログラフィの電子化が必要で、この研究は国内外で行われているという。
デジタル的にホログラムを撮って、デジタル的に再生することが必要なのですが、難しいのは計算、表示をするために膨大なデータを使うことが必要だということです。(大井氏)
ホログラフィは、(光の回折という現象を用い、)1ミリあたり1,000本くらいの干渉縞に光を通すことで光を変調し、画像を映し出す。しかし、これを通信で行うためには膨大な情報量という問題を解決しなければならない。
あらかじめ出したい柄の回析パターンをコンピューターに計算させれば画像に合った縞を順次計算機が作っていきますが、テレビの1画素が0.3~0.5ミリなのに対して、ホログラムをテレビの視野角で映そうとすると、画面の大きさにもよりますが、少なくとも10億画素程度の情報を撮影し、電送し、再生しなければいけない。動画のホログラムやホログラムを電子化して送るということはまだ研究フェーズにあります。ただ、現在のスーパーハイビジョンの流れもあってどんどん画素が細かくなる流れもあるし、液晶分子のサイズは1ミクロンよりも小さいので、原理的にはホログラム用液晶の画素を作ることは可能です。そういう意味では情報量が膨大ということが、電子ホログラフィ実現の課題なのです。(大井氏)
前出したマイケル・ジャクソンのステージのように半透明のスクリーンにプロジェクターで投影する形式のものは、ホログラフィックと呼ばれていて、スクリーン面にしか映像が出ないので、CG的な演出テクニックを使うが、スクリーンから離れたところにちゃんとした映像を出そうとすると、そうした方式では出せなくなってしまう。ホログラムの場合は1ミクロンピッチの画素が必要ということでデータ量が多いので、10メートル四方の映像を作れと言われると難しい。両者にそうした長所、短所があるので、どちらかがなくなってどちらかが残るものではないという。
どういったことに使うかと言うと、通信に使いたい。革新的な三次元映像を使うことで、非常にリアルなオブジェクトや人を空中に浮かせ、コミュニケーションを豊かにすることを目指す。それがホログラムを通信に使うことのモティベーションです。(大井氏)
電子ホログラフィ通信の課題が解決し、実用化が進めば、三次元画像で演出したスマートフォンゲームや、商品の立体画像を映したeコマースサイトでのよりリアルなショッピング体験、まさに「スター・ウォーズ」の世界のような、通話相手をホログラム画像で表示したビデオ会議など、様々な状況での活用が期待できる。