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Channel: Ichiya Nakamura / 中村伊知哉
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民放連報告:2つの戦争の最中に

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■民放連報告:2つの戦争の最中に

民放連デジタルネット研究会報告。

札幌テレビ、TBSテレビ、文化放送、日本テレビ、テレビ朝日、フジテレビ、テレビ東京、FM東京、東京MXTV、中京テレビ、関西テレビ、九州朝日放送。

今年も巻頭言を寄稿しました。



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 2022年春。人類は未曾有の試練にある。コロナとウクライナ。2つの戦争の最中にある。

 コロナは世の中のDXを数年は前倒しした。日本はデジタル敗戦を認識し、デジタル庁を作った。その土石流の中、テレビ・ラジオはどのような役割を果たしただろうか。主役たり得ただろうか。


 ロシアの侵攻は、スマホやSNSが普及して初、AI・データ駆動社会初の主要国が関わる戦争だ。サイバー攻撃、フェイクニュース、デジタル制裁。デジタルが主戦場となった戦争だ。戦火の中、放送はどのような役割を果たしただろうか。主役たり得ただろうか。


 2021年のネット広告費が4媒体を初めて上回ったとの報道があった。ネット2.7兆円に4媒体2.5兆円、ということより、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌が4媒体とひとくくりに扱われるようになった、のが一番のニュースだと感じた。NHKが同時配信を始め、著作権法も改正され、民放もスタートした、時にはもう場面転換していた。


 もはや通信・放送の二元論は用済み。0円だった市場が2.7兆円に成長した。それを取りに行かなかった30年を振り返る場面は終わっている。民放と公共、キー局とローカル局といった閉じた世界の二元論もグローバルなネットの渦に飲み込まれる。放送4兆円を含む、ネットも含む、情報市場70兆円の中で立ち位置を考える場面だ。

 

 政府・知財本部では、コンテンツ戦略としてプラットフォームとメタバースが論じられている。GAFAやネットフリックスに代表される米IT企業への対応と同時に、中国のIT企業も日本に資本投下してくることにどう向き合うか。メタバースやNFTのような新技術の波が押し寄せていて、これをどうとらえるか。これも場面転換を示している。放送業界の答えは何か。


 そしていよいよ総務省ではマスメディア集中排除や放送区域といった制度の根幹が論じられ始めた。メディア業界の構造変化も展望される。場面転換を迎え、自らの腹ぐくりが求められている。


 コンテンツ政策とメディア政策の融合も課題となっている。映像が全IP、全クラウドに向かい、さらにデータとAIが広告ビジネスの主役となっている。放送も5Gで送れるようになる。これらを総合的にとらえた戦略はまだ見受けない。


 90年代のマルチメディア、2000年代のネット・地デジからあと、大きな絵を描かずにやってきた、その帰結が今の混沌であろう。メディア全体を見通した戦略を民間サイドが描く。その努力が放送業界にも求められている。


 今回のレポートは、戦時の転換点を示す報告にあふれている。ライブ配信・アプリに新型デバイス。視聴データにメタバース。プロセスエコノミーにファンマーケティング。駅伝、五輪にフェス。そしてコロナ対策。各社の取組みがまばゆく多方面に拡散していて、戦火の先に光を見出そうとしている。きっと見出せると信じる。


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