■通信・放送行政見直しのザワザワ
電波シンポジウム「東北新社・NTT接待問題の背景にあったものは何か?」に登壇しました。
元NHK池田信夫さん、元通産省安延申さん、元NTTドコモ夏野剛さん、そして元郵政省のぼくという座組。
通信・放送独立委員会が論点。
話したこと、話さなかったこと含め、メモしておきます。
独立委員会は98年の橋本行革、2009年の民主党政権、そして今回、10年ごとに頭をもたげます。
ぼくは98年には郵政省の担当で、その話を潰しました。09年の時も反対しました。
理由は一点「規制強化になるから」。それは今も変わらない。
ただ、話が潰れて20年の結果が今回の騒動なので、今回は反対はしません。
まずこの20年の行政をどう評価するか。
総務省になってメディア行政は「よくやっている」と見ます。
デジタルインフラ整備、という主目的は海外に比べ成功し、郵政省時代より役所の評判はよくなった。
独立機構である米仏英はもっとキツくて不透明です。
逆に「弱くて狭い」のが日本の特徴です。
通信・放送行政の強大な権力からくる政官業の癒着、という問題の見立ては的外れで、弱くて狭いから今回のような事態を招いたとぼくは見ています。
日本の行政は弱いです。ユルいです。
90年代後半、料金・参入規制を抜本緩和し、電波を除き外資規制も撤廃。
テレビ番組で問題があってもせいぜい注意止まりで、米仏英のように番組打ち切り勧告や根拠不明の罰金が課せられるなんてことはない。
日本に合っている行政だと思います。
独立させたら暴走して、透明度も下がりますよ。
政治や政府からの独立だから、議員会館まわりも夏野さんの規制改革会議への付き合いもしなくてよくなる。
官僚にとっては望むところ。
規制だけするんだから、一生懸命規制しますよ。
海外を見ていたらそうなるだろうことは想像できます。
そして日本の行政は狭い。
郵政省には、通信・放送の他に、物流、金融、保険がありました。
98年行革で総務省になって郵政事業が切り離されました。
自治省・総務庁と合併したが交流せず、通信・放送だけになりました。
弱くて問題視もされず、同じ人たちが狭い業界と20年。その歪みが今回の問題です。
さらに問題は、この分野の政策アジェンダがもう変わっている、ということです。
通信も放送もデジタルインフラの整備が完了し、融合法体系の整備も10年前に済ませ、後は携帯値下げやローカル局経営問題など成熟市場の調整です。
事業者行政から消費者行政にシフトしています。
より重要なアジェンダは、IT政策と知財政策の融合、データ戦略、海外プラットフォーム対応、個人情報保護、セキュリティ対策、行政・教育・医療デジタル化といった事項。
これらはこの20年で政府各所で対応がとられてきました。
総務省は狭いままで、主役ではありません。
それはデジタル時代のタテ割り問題としても露呈しています。
通信・放送に、IT、知財、コンピュータ、著作権、セキュリティ、これらの役所がバラバラ。
さらにデジタル庁もできます。
規制・振興の分離なんてさらなる細分化じゃなく、大ぐくりのほうが重要です。
大ぐくりにする際、行政の見直しは必要。
スリム化やさらなる規制緩和を進めましょう。
市場監視という面では、総務省の紛争処理委員会の機能を強化すればいい。
番組チェック面は民間組織であるBPOの権限を強化すればいい。
行政に対する監視は、行政管理局と会計検査院の強化でしょう。
独立委員会は要りません。
規制強化につながる独立委員会を望むセクターはいないんじゃないですかね。
政策を担ぐスポンサーが見当たらない。
これは電波オークションも同様。
アカデミックな議論や政治談義があっても、産業界、利用者ないし外国など実現を求めるプレッシャーがないとリアリティーあるプランになりません。
ぼくは「文化省」を掲げています。次の省庁再編案として。
通信・放送はじめデジタル系の行政を大ぐくりにした強力な役所。デジタル庁を核にすればいい。
2018年に経団連が提案した「デジタル省」(情報経済社会省)とほぼ同じ内容です。
これは政策スポンサーがいるんです。
今回のざわざわが、デジタル庁創設を経て、その次のアジェンダとして、大ぐくりの行政組織論議に発展してくれれば生産的だと考えます。