Quantcast
Channel: Ichiya Nakamura / 中村伊知哉
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1187

コンテンツ+メディアを横断する総合政策を

$
0
0

コンテンツ+メディアを横断する総合政策を

今シーズン最後の知財本部・コンテンツ小委員会が開催されました。

前回の会議でぼくは、著作権法という枠の中で部分解を求めても最適解には届かない、と発言しまして、そりゃ一体なんのことじゃ的な匂いをまいてしまいました。

5分与えるから述べよ、と宿題があり、座長ながら一委員として以下のようにコメントしました。


------

まずコンテンツ政策。

90年代に始まり、文化庁、経産省、総務省がバラバラに対応していたが、2003年に知財本部が設置されて横串が刺された。

海外展開とネット対応に力が入れられてきた。

海外展開では成果が現れ、この5年間をみてもアニメ、映画、放送など各ジャンルで海外売上が増大している。







一方、ネット展開は分野により差が大きい。

ようやく効果が現れ始めた状況。

マンガは海賊版、アニメはネットフリックスなど海外の配信、ゲームはグーグルなどによるクラウド化、音楽はスポティファイなどプラットフォームへの対応という具合に、海外のプレイヤーが脅威となっている。






マンガは海賊版対策、テレビは通信との融合、ゲームはeスポーツなど新領域の開拓、音楽は著作権処理ルールなど、対策はジャンルで違いがある。

ジャンル横断で他分野と連携する対策がより重要。

クールジャパン戦略で議論されているように、食、ファッション、観光など他産業との連携策が重要となる。







次にメディア政策。

コンテンツの流通ハードとしてのメディアやITとの連携はより重要で、その政策も合わせて見ておく必要がある。

日本のコンテンツはテレビが大きな役割を果たしてきたが、通信/ネットの発展で構造が変わった。通信・放送政策は総務省が中心に担ってきた。





知財本部が設置された2003年に地デジが始まり、2006年には小泉政権下での竹中懇談会で通信・放送法体系の見直しが答申され、大幅な規制緩和がなされた。

それから15年かかり、ようやくNHKがネット同時配信を実施、著作権法の改正案も国会に提出され、通信・放送融合の大きな宿題がこなされた。


しかし気がつけば、メディアの新機軸はネットが担い、NTTの年間利益だけでキー局全部を買収できるほどの体力差がついた。米事業者がデータとAIによるビジネスで攻勢をかけている。

コロナでテレビ局の広告がしぼむ一方、ネット広告がテレビを抜き、映像配信は巣ごもり特需に沸くという対比を見せる。


かつてコンテンツとメディア、ソフトとハードは一体だった。機器メーカが音楽レコードを作ったりしていたが、最近は録音録画補償金や海賊版対策でもハードとソフトの業界が対立する場面が多く、両者の融合が課題になっている。


コンテンツとメディアには、コロナとテクノロジーの2つの大波が押し寄せている。

コロナはライブ・エンタメをストップさせ、業界が大打撃を受けている一方、映像配信やeスポーツなどが巣ごもり特需で急成長している。

コロナ後には業界構造が変わるが、それを総合的にとらえた戦略は見受けない。


テクノロジーはAIやデータによるコンテンツとメディアの刷新が進む。5Gによる変化も大きい。

しかしこれを総合的にとらえた戦略も乏しい。

広告の大半がデータとAIによるターゲティング広告となり、ゲームはクラウドでゲーム機が不要となり、放送も5Gで送れる、という変化をどうとらえるのか。


そしてこれら変革を進める主役がアメリカのIT企業やプラットフォーマーで、中国も有力なプレイヤーとなる。

放送の外資規制を強化する議論が起きているが、外資を排除して戦略を描くのか、外資を導入する戦略を描くのか、そのあたりも論点。






ということで、私の問題提起。

ジャンル別の検討、著作権など個別政策だけでは、もはや最適解が得られないのではないか。

コンテンツ+メディアを横断する展望がいま必要ではないか。

知財政策とIT政策の融合、文化産業政策の立案が必要ではないか。

ということ。

------


以上、5分。

いつも申し上げていることで新味はないけれど、放送法と著作権法の大きな融合宿題をこなしたいま改めて、総合政策を強調したものです。

省庁再編や技術導入推進策など、いくつか具体的な腹案もありつつ、そこまでは触れず、総論を申し上げました。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1187

Trending Articles