■新版超ヒマ社会をつくる4 超テック戦略
近著「新版超ヒマ社会をつくるアフターコロナはネコの時代」。その一部を、しみ出します。
第2章「超テック戦略」から。
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○メスにもなればドスにもなる
2020年はAC(アフターコロナ)元年。それ以前のBC(ビフォーコロナ)と歴史は分断される。AC2年は世界が引きこもり、静かに騒然とする幕開けだった。
20年前、ブッシュvsゴアが最高裁までもつれこんだ米大統領選は、トランプvsバイデンでアメリカの分断が極まったことを示した。現職大統領にあおられた暴徒が連邦議会の議事堂を占拠し、銃撃で死者も出た。オンラインのライブ中継を世界が目撃した。
あぁあそこそんな国だよね、とアメリカの劣化をさして驚かず眺める世界の視線に驚いた。フェイスブックもツイッターも大統領のアカウントを停止した。企業が国家元首にダメ出しする。しょーがねーなーとそれを見る世間の視線にも驚いた。
これに比べ緊急事態宣言が2度めとなっても日本はシーンとしていた。催涙弾も撃たれていないし流血事件も聞かない。しかし、感染封鎖と経済維持を巡る対立も静かに進行している。BCとACでの分断はこれから表立ってくるだろう。安保騒動、オイルショック、カルト宗教テロ、大震災など大きな事件はありながらも、先の敗戦に匹敵する難事を免れてきた日本だが、今回の辛苦は戦争に匹敵する。
ACとBCを分ける事案は起きている。AC元年は5G元年。4Gまでは高速・大容量の世代進化だった。5Gは超高速もさることながら、超低遅延で同時多数接続というIoT向けのサービス。人と人のコミュニケーションから、モノとモノの交信にシフトする。連続線上の進化ではない。のろし以来の通信が切り替わる分岐点だ。
5G普及と並行して政府はケータイ料金4割下げを業界に求める。1985年の通信自由化から35年、規制緩和を続けてきて、料金も非規制になったのだが、ここにきてやっぱ高すぎじゃね?という。参入したばかりの楽天もつらいね。
でNTTはドコモを完全子会社化した。同じく85年に公社から株式会社になったNTTは、強すぎるってんで1999年には分割され、暴れないよう首輪がはめられた。ところが気がつけば商売やデータはGAFAが握った。政府はデジタル敗戦の白旗を掲げた。5Gも他国に先行され、日本企業は海外でも振るわない。分散NTTが集約へ逆行することに政府は異を唱えずすんなりと再編が整った。通信自由化にもNTT分割にも関わったぼくには、時代が分断されたと映る。
通信自由化の80年代、ぼくは官僚として国会答弁を書いていた。当時、政府は高度情報社会を目指していた。大臣、高度情報社会とは何だね?答弁「世界中の人が映像をリアルタイムに共有できる社会であります。」大臣、そうすればどうなるのかね?答弁「世界中のひとがわかり合って世界平和が訪れます。」えへん立派な答弁である。
今世紀が始まった年の9月11日。ぼくはニューヨークのセプテンバーイレブンに巻き込まれ往生した。機嫌よくパフィーを聞きながらクルマを運転していたので、何が起きているかわからん。立ち寄った喫茶店で見たCNNで、えげつないテロだと知った。
あわてて東京に電話したら、みんな夜のニュースでリアルタイムに飛行機が突っ込むシーンを見て、あわわとなっていた。アメリカ人は東海岸は通勤通学、西海岸は時差で寝ていて見ていない。日本人のほうが映像ショックが大きい事件だった。
世界中の人が映像をリアルタイムに共有できる高度情報社会は到来していた。だけど世界平和なんてウソっぱちだった。映像を共有したら、憎しみが募って、テロじゃないか。その後、ネット界の反戦運動もむなしく、イラク戦争が勃発した。戦地ではGPSでのピンポイント爆撃やウェアラブル装備の兵士たちが、これでもかとデジタル技術で人を殺した。
技術はもう手のひらにある。反戦も戦争も推し進める。ネットは為政者の味方であり、テロリストの味方でもある。ナイフのようなもので、メスにもなればドスにもなる。それを決めるのは、ユーザ。デジタル・ユーザの世紀が始まったのだ。
2001年末、TIME誌の今年の人:パーソン・オブ・ザ・イヤー、ネット投票の2位はウサマ・ビンラディンだった。1位には田代まさしが輝いた。911の年、首謀者をさしおいて、のぞき事件を起こした日本人を世界トップに押し上げたのは2ちゃんねるの連中だった。連結した極東のユーザがエスタブリッシュな欧米のマスメディアをいてこました。個人はパワーアップした。マスメディアは相対化した。ヒエラルキーは崩れた。
10年後の2011年、ビンラディンは殺された。パキスタンに潜伏し、ネットも電話も使わなかったが、隠れ家が特定された。都会の大邸宅なのに通信回線が敷かれていなかったからバレたのだ。秘密は筒抜け。オフラインも安全ではない。[シークレット](スラップ・ハッピー)
同年、リビアのカダフィ大佐も殺された。元首なのになぜ大佐どまりなのか疑問だが、ドローンが爆撃したという。安全地帯はない。同年、エジプトのムバラク政権はフェイスブックやツイッターで数珠つなぎの民衆に倒された。自爆突入ミサイルも投入した。レーダーを読み合うIT戦争でもあった。
2020年9月にカスピ海付近で始まったナゴルノ・カラバフ戦争。アゼルバイジャンはトルコ製のドローンでアルメニアの戦車160両をやっつけた。
同じソーシャルメディアでイスラム過激派は世界から若い戦士を集める。中国は万里の長城ばりのファイアウォールを敷き、民衆の管理に躍起だ。外国企業の活動にも制限を加える。域内ブロック戦術を堂々と講じる。タコつぼ強靭化。
農業社会は土地が資源。工業社会は石油が資源。情報社会はデータが資源。土地や石油を求め国家は戦争を繰り返した。だがデータは企業が握る。その覇者、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)は並の国家を超えるパワーを手にした。国家と企業の立ち位置は同列になった。戦争をせず権力を変えた静かな大革命だ。