■知財本部・著作権タスクフォース:後編
前編で解説した大胆な認識を踏まえて、各論の課題を整理するのが後半「デジタル時代に対応した利用円滑化方策と権利者の利益保護の両立」です。
UGCの発展と権利者の尊重とを両立させる利用ガイドラインの策定。権利情報データベースの整備促進。コンテンツ制作の取引適正化。といった項目を挙げています。
アナログとデジタル、リアルとネットで権利者の利益に与える影響が異なる場面について、著作権法上の規定を見直すことも示唆しています。
放送とネットで権利のあり方が異なっていた点について、今般、文化庁にて先行して手当する作業を進めました。こうした事例が他にもみられるのか、要チェックです。
注目点は「ソフトローの活用」を掲げた点です。
著作権は法制度=ハードローに重きが置かれ、紛争は裁判に委ねられる面が強かった。しかしデジタル化で著作物の生産・利用環境が激変し、調整や合意形成の分量も爆発的に増す中、立法・司法に頼ることの限界は明らかです。
法改正の論議でも、関係者の参加によるガイドラインの策定が求められる場面が増えてきました。
今回、「必要に応じて、行政機関の関与の下、当事者間の合意形成を促す」「ソフトローと実定法の組合せと相互関係についてイノベーションを生み出していく」との認識を示しました。
それで今回モメたのは、「一元的かつ円滑な権利処理の促進」についてです。
コンテンツの利用を円滑化するための制度について、以下の4スキームについて論じました。
1)補償金付権利制限
2)混合型(集中管理と補償金付権利制限)
3)拡大集中許諾
4)裁定制度抜本見直し
特に3)拡大集中許諾の扱いが論点となりました。
委員間以上に、省庁間の調整が重く、最後までもつれました。
大胆な議論を進める知財事務局と、制度に責任をもつ文化庁との調整を軸としながら、規制改革会議や自民党なども加わり、落とし所を探りました。
結局、タイムアップとなり、タスクフォース委員による「中間まとめ」としました。
法的な論点は専門的に過ぎるので省きます。
ぼくなりに、とても乱暴にこれも意訳すると、この新スキームに対する差は、利害や省益というものではなく、法的正しさという是非論に至る以前の、制度そのものへの構えの違いが現れたものと考えます。
右は権利保護、左は流通促進、そのスタンスというか。
既存体系の責任保守vs体系ガラポンのロマンというか。
その間に知財本部が入って意見を伺った、ということかと。
そして、だからどうするという答えを出したものではありません。
この点、海賊版の論議とは形が違います。
あれは著作権と通信秘密という2つの保護の対立で、業界も担当省庁も分かれる、眼前に転がる利害の調整でした。
今回は今後の課題を先取りして仕組みを整えようとする理念系の努力。
ステイクホルダーを交えての本格論議はこれからです。
権利者不明の場合の裁定制度は見直しが図られてきたが、より幅広い利用を進めるため、行政の関与をなくして民間にアウトソースする。申請の電子化や要件の緩和も行う。というもの。
これは今後の具体的な制度案件になります。
将来を見据えた大きな展望と、現下の課題を解決する待ったなしの制度・環境整備。
社会経済のDXが加速する中、著作権への向き合い方もしばし両にらみとなります。
引き続き、よろしくどうぞ。
なお、著作権制度という部分調節によるコンテンツ問題の解決は限界に達したと感じました。通信・放送制度やIT政策を含む総合的なメディア政策のアプローチが必要であると。
このためには、6つ程度の省庁を横断した座組が必要になります。
デジタル庁の創設はじめ霞が関の見直し時期に考えるには、よろしいテーマかと存じます。