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Channel: Ichiya Nakamura / 中村伊知哉
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白書「フィクションで描かれたICT社会の未来像」27/27

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■白書「フィクションで描かれたICT社会の未来像」27/27

(6)総括

 これまで紹介してきたように、ICTをはじめとする技術の進歩発展により、多くの想像の産物が現実に近づき、あるいは形を変えて現実のものになろうとしている。目の前で起こっていることが、かつて目にしたフィクション作品をなぞっているような既視感にとらわれた経験を持つ方も多いだろう。

 ジャレド・ダイアモンド(「銃・病原菌・鉄」などの著者)、ノーム・チョムスキー(言語学者)、オリバー・サックス(脳神経科医、「レナードの朝」の著者)、マービン・ミンスキー(人工知能を専門とするMIT教授)、トム・レイトン(MIT教授でAkamai Technologies設立者)、ジェームズ・ワトソン(DNAの二重らせんの発見者の一人であるノーベル賞受賞者)という現代の6人の知性へのインタビューを集めた「知の逆転」(インタビュー・編集:吉成真由美)の中で、マービン・ミンスキーは自身の読書に関する質問に対し、以下のように答えている。

 「子どもの頃、たくさんの本を読みました。好きだったのは、新しいテクノロジーや科学についてのアイデアをいろいろ提供してくれたジュール・ヴェルヌや、歴史というものがどうやって変わっていくか、変わりうるのかということをたくさんの物語で教えてくれたH.G.ウェルズなどです。~中略~いまでは、読むのはほとんどSFですね。少なくともこれらの中には、往々にしてなんらかの新しいアイデアが入っているから。」(「知の逆転」本文より引用)

 SFをはじめとするフィクション作品と現実の技術の発展とは決して無縁ではない。作品で提示される様々なアイデアは、人々が未来を想像することを助け、技術の発展はさらなる想像の土台を育み、想像の領域を拡大する。

 「3.仮想現実技術」での稲見教授の言葉にあるように、これらは直接結びつくことはないが、相互に影響し合っている。ミンスキーは自身に影響を与えた例として古典的なSF作家の名前を挙げたが、これに続く作品群が多様な想像の産物を提示し続けていることは、紹介した通りであり、多くの人々に影響を与えていることが推察できる。フィクション作品は、現実の技術が進歩発展していくための重要なエンジンのひとつなのである。

<参考文献>
1.    ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソン(著)、吉成真由美(インタビュー・編)(2012)「知の逆転」

(このシリーズおしまい)


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