■白書「フィクションで描かれたICT社会の未来像」20/27
(4)「2001年宇宙の旅」~AIの反乱
アイザック・アシモフの作品に多く登場した世界を支配する架空のコンピューター“マルチバック”やロバート・ハインラインの「月は無慈悲な夜の女王(原題:The Moon Is a Harsh Mistress)」に登場した月を管理する思考計算機“マイク”等、それ以前にも人間の知能を超えた能力で社会を管理するコンピューターは多くのSF作品の中に登場してきたが、管理コンピューターとして世界に強い印象を残したのは映画「2001 年宇宙の旅(原題:2001 A Space Odyssey)」に登場したHAL9000だろう。
小説家アーサー・C・クラークと作品を監督したスタンリー・キューブリックの共作によるストーリーを映画化した「2001 年宇宙の旅」は、1968年に公開された、人工知能を備えたコンピューターHAL9000 の反乱を描いた象徴的な映画である。
HAL9000 は、木星探査船ディスカバリー号に搭載され、船内のすべての制御を行っていたが、ある日その機能に変調をきたす。乗員はHALの故障を疑い、思考部の停止を話し合うが、そのことをHALに知られてしまい、その後、機器の故障や事故が発生し、次々に命を失っていく。
HAL9000の変調について、映画ではその原因が明らかにされないが、アーサー・C・クラークの小説版では、その原因をHALが抱えた矛盾のせいだとしている。探査ミッション遂行のため、HAL9000は乗員と話し合い協力するよう命令されていた。しかし一方で、密かに与えられた任務について、ディスカバリー号の乗員に話さず隠せという命令も受けていた。HAL9000は、これら二つの指示の矛盾に耐えきれず異常をきたし、狂気に陥ったということだ。
これらは小説の中ではすでに扱われていたテーマではあったが、「2001年宇宙の旅」は映画というメディアに自意識を持ったコンピューターを登場させることで、その後のSF映画のターニングポイントになっただけでなく、コンピューターの未来も示唆する作品となった。
人工知能という概念は1950年代からあり、その研究は様々なアプローチで続けられている。「2001年宇宙の旅」のようなフィクション作品の中でなく、現実の人工知能の進歩が一般に広く伝えられた出来事としては、1997年、IBMが開発したスーパー・コンピューター“Deep Blue(ディープブルー)”がチェスチャンピオンのG.カスパロフに勝利したことがあげられる。
IBMがその後のプロジェクトとして開発したコンピューター“Watson(ワトソン)”は、2011年アメリカのクイズ番組“Jeopardy!(ジョパディ!)”で人間と対戦して勝利し、賞金100万ドルを獲得している。また、日本でも2012年から、現役のプロ棋士と将棋コンピューターソフトが戦う将棋電王戦が開催され、2014年に行われた第3回将棋電王戦では、4勝1敗でコンピューター側が勝利したが、2015年の対戦では3勝2敗でプロ棋士側が勝利を収めている。
一方で人間の学習能力を再現する研究も進められている。脳の神経細胞(ニューロン)とシナプスの回路をコンピューター上で再現したニューラル・ネットワークを何層にも重ねる“ディープ・ラーニング”という手法が話題を集めている。人間は自らの知識や経験に基づいて物体を見分けることができる。しかし、コンピューターにそのタスクを行わせるためには、物体を見分けるルールを人間が定義する必要があった。これをある程度機械に任せ機械学習させることがディープ・ラーニングである。
Googleは2012年、ディープ・ラーニングを使って、人工知能が人間に頼らずにYouTubeの画像を用いて学習を行った結果、人や猫の顔に強く反応を示す人工ニューロンを作ることができたと発表して、世界を大きく驚かせた。
また、同社が2014年に買収したDeepMind Technologies社が開発しているディープ・ラーニングを使って80年代のビデオゲームをプレーする人工知能(deep Q-network)は、事前にルールなどを教えられずに、画面の情報だけを頼りにプレーし、どのようにプレーすればより多くのスコアが出せるかを学習してゲームに強くなっていくという。
コンピューターが人間の力に頼らずに学習を進めるディープ・ラーニングは人工知能研究における大きな突破口で、今後、研究は加速度的に進んでいくという意見もある。
未来学者のレイ・カーツワイルは、著書「シンギュラリティは近い-人類が生命を超越するとき(原題:The Singularity is near: When Humans Transcend Biology)」の中で、2029年に人工知能が人間の知能を上回り、2045年には“シンギュラリティ(技術的特異点)”が起こるとし、社会に波紋を投げかけた。
人工知能の能力が今後、加速度的に高まっていくとして、シンギュラリティを迎えた時、HAL9000が起こしたようなコンピューターの反乱は起こりうるのだろうか?それともHAL9000が抱えたような矛盾を解決しうる知識や常識を備えたコンピューターが誕生しているのだろうか?人工知能研究はその入口に立ったところなのだろう。
(4)「2001年宇宙の旅」~AIの反乱
アイザック・アシモフの作品に多く登場した世界を支配する架空のコンピューター“マルチバック”やロバート・ハインラインの「月は無慈悲な夜の女王(原題:The Moon Is a Harsh Mistress)」に登場した月を管理する思考計算機“マイク”等、それ以前にも人間の知能を超えた能力で社会を管理するコンピューターは多くのSF作品の中に登場してきたが、管理コンピューターとして世界に強い印象を残したのは映画「2001 年宇宙の旅(原題:2001 A Space Odyssey)」に登場したHAL9000だろう。
小説家アーサー・C・クラークと作品を監督したスタンリー・キューブリックの共作によるストーリーを映画化した「2001 年宇宙の旅」は、1968年に公開された、人工知能を備えたコンピューターHAL9000 の反乱を描いた象徴的な映画である。
HAL9000 は、木星探査船ディスカバリー号に搭載され、船内のすべての制御を行っていたが、ある日その機能に変調をきたす。乗員はHALの故障を疑い、思考部の停止を話し合うが、そのことをHALに知られてしまい、その後、機器の故障や事故が発生し、次々に命を失っていく。
HAL9000の変調について、映画ではその原因が明らかにされないが、アーサー・C・クラークの小説版では、その原因をHALが抱えた矛盾のせいだとしている。探査ミッション遂行のため、HAL9000は乗員と話し合い協力するよう命令されていた。しかし一方で、密かに与えられた任務について、ディスカバリー号の乗員に話さず隠せという命令も受けていた。HAL9000は、これら二つの指示の矛盾に耐えきれず異常をきたし、狂気に陥ったということだ。
これらは小説の中ではすでに扱われていたテーマではあったが、「2001年宇宙の旅」は映画というメディアに自意識を持ったコンピューターを登場させることで、その後のSF映画のターニングポイントになっただけでなく、コンピューターの未来も示唆する作品となった。
人工知能という概念は1950年代からあり、その研究は様々なアプローチで続けられている。「2001年宇宙の旅」のようなフィクション作品の中でなく、現実の人工知能の進歩が一般に広く伝えられた出来事としては、1997年、IBMが開発したスーパー・コンピューター“Deep Blue(ディープブルー)”がチェスチャンピオンのG.カスパロフに勝利したことがあげられる。
IBMがその後のプロジェクトとして開発したコンピューター“Watson(ワトソン)”は、2011年アメリカのクイズ番組“Jeopardy!(ジョパディ!)”で人間と対戦して勝利し、賞金100万ドルを獲得している。また、日本でも2012年から、現役のプロ棋士と将棋コンピューターソフトが戦う将棋電王戦が開催され、2014年に行われた第3回将棋電王戦では、4勝1敗でコンピューター側が勝利したが、2015年の対戦では3勝2敗でプロ棋士側が勝利を収めている。
一方で人間の学習能力を再現する研究も進められている。脳の神経細胞(ニューロン)とシナプスの回路をコンピューター上で再現したニューラル・ネットワークを何層にも重ねる“ディープ・ラーニング”という手法が話題を集めている。人間は自らの知識や経験に基づいて物体を見分けることができる。しかし、コンピューターにそのタスクを行わせるためには、物体を見分けるルールを人間が定義する必要があった。これをある程度機械に任せ機械学習させることがディープ・ラーニングである。
Googleは2012年、ディープ・ラーニングを使って、人工知能が人間に頼らずにYouTubeの画像を用いて学習を行った結果、人や猫の顔に強く反応を示す人工ニューロンを作ることができたと発表して、世界を大きく驚かせた。
また、同社が2014年に買収したDeepMind Technologies社が開発しているディープ・ラーニングを使って80年代のビデオゲームをプレーする人工知能(deep Q-network)は、事前にルールなどを教えられずに、画面の情報だけを頼りにプレーし、どのようにプレーすればより多くのスコアが出せるかを学習してゲームに強くなっていくという。
コンピューターが人間の力に頼らずに学習を進めるディープ・ラーニングは人工知能研究における大きな突破口で、今後、研究は加速度的に進んでいくという意見もある。
未来学者のレイ・カーツワイルは、著書「シンギュラリティは近い-人類が生命を超越するとき(原題:The Singularity is near: When Humans Transcend Biology)」の中で、2029年に人工知能が人間の知能を上回り、2045年には“シンギュラリティ(技術的特異点)”が起こるとし、社会に波紋を投げかけた。
人工知能の能力が今後、加速度的に高まっていくとして、シンギュラリティを迎えた時、HAL9000が起こしたようなコンピューターの反乱は起こりうるのだろうか?それともHAL9000が抱えたような矛盾を解決しうる知識や常識を備えたコンピューターが誕生しているのだろうか?人工知能研究はその入口に立ったところなのだろう。