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Channel: Ichiya Nakamura / 中村伊知哉
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テレビ随想:コラあイノキ起きろーっ!

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■テレビ随想:コラあイノキ起きろーっ!

 全ての小中学生がタブレット端末で勉強できるようになります。国は2020年をめどに一人1台の普及を目論んでいます。教育の情報化です。

 コンピュータやネットでつながれば、世界の先端情報を手に入れることができます。爆発物を扱う実験や歴史的な事件を映像や音声も伴って見聞きできます。黒板と紙の授業がより豊かで社会に開かれたものになります。

 これに対し、「学力向上の効果はあるのか?」「コストがかかるだろう」という指摘もあります。さらに、「子どもはゲームにのめり込むんじゃないの?」「遊んじゃうんじゃないの?」なんて心配も寄せられます。

 どこかで聞いたことがあります。そうだテレビだ。かつてテレビは、一億総白痴化をもたらすと攻撃されました。それから半世紀以上たちましたが、われわれはそれほどバカになったかな。そうでもないと思うのですが。

 学校にはテレビがあります。むかし学校にテレビを置くなんて、「学力向上の効果はあるのか?」という指摘もあっただろうに、どうやってコストをかけて実行したんでしょう。誰かが「必要だ」って英断したんでしょうね。

 それで学力は向上したんでしょうか。むかし見た教育番組の中味はおぼえていません。私には効果はなかったかもしれません。

 でも、主題歌は全部おぼえています。何か強いものを残したのは確かです。専門家によれば、日本の教育番組と学校教育とは世界のモデルとされるほど強い結びつきがあるそうです。

 初めて学校でテレビを見た記憶は、オリンピック。
 1968年、メキシコ。小学校2年生でした。
 重量挙げ三宅選手の金、走り幅跳びビーモン選手の8m90をおぼえています。
 レスリングアニメ「アニマル1」をみんなで歌いました。
 オリンピック放映中は授業をせずにずっとテレビタイムでした。
 担任の大塚先生が見たかっただけなのかもしれません。
 今なら許されないのでしょう。
 でも、おかげで今なお映像が鮮烈です。

 もう一つの強い記憶は、アントニオ猪木対モハメッド・アリ格闘技世界一決定戦。
 1976年、高校1年生でした。
 土曜の昼、私たちは野球部の練習を切り上げて、校内のテレビのある部屋に集まりました。
 先生たちと一緒になって、「コラあイノキ起きろーっ!」と怒鳴っていました。
 決して教育的ではありません。
 だが、振り返れば、健やかな体験だったと思います。

 コンピュータやネットで、劇的な教育効果がもたらされるでしょう。一方、何か別種の、決して教育的ではないことも起きるかもしれません。
 だけど、私たちがそうだったように、さほど心配することもあるまい、と思います。

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