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Channel: Ichiya Nakamura / 中村伊知哉
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民放連報告、デジタルとAIのはざまで

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■民放連報告、デジタルとAIのはざまで

民放連デジタルネット研究会報告2024。

今年も巻頭言を寄稿しました。

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毎年ウェブで投票を行う「デジタル十大ニュース」。

2023年の結果は、以下のとおりでした。

1 Chat GPT !!!!!

2 YOASOBI「アイドル」Billboard1位

3 TwitterXになる

4マリオ映画世界アニメ興収史上2位

5ハリウッドでAIストライキ

6オープンAI アルトマン騒動

7 LINEYahoo!統合

8戦争×フェイクニュース

9しょうゆ差しなめ男

10 G7広島サミットからのAIプロセス


上位10件中(LINE-Yahoo!を国際と数えれば)9件が国際モノ。ボーダレスとなりました。純国産ネタは「しょうゆ差しなめ男」だけ。

そこに国産コンテンツが2件(アイドルとマリオ)食い込む快挙とみるか、日本のプレゼンスが落ちたとみるか。

 

そして2017年にAIスピーカーが入賞して以来、久しぶりのAIモノ登場にして、一気に5件がAI案件。AIが席巻した1年でした。私がここでChatGPTに巻頭言を書かせてから1年でもあります。

その間、世界の慌てぶりたるや目を見張りました。政治的にも、AIを規制したい欧州とそれを嫌う米国の間で日本がサミットに場を設けてとりなす形。こちらは日本がプレゼンスを発揮しました。

AIとコンテンツを巡っては警戒論・慎重論も渦巻きます。AIが著作権を犯す恐れからの制度論もあります。

ただ、政府・知財本部でAIの委員会が作られたのは2016年、8年前のことで、今日のようなAIの登場を想定し、私が座長として海外に先駆けて2年ほどたっぷり議論しました。文化審議会の審議につながって著作権法が改正、世界で最もAI学習しやすい環境を整えたものです。

ところが登場すると身構える。NRIの調査によれば、生成AIを導入済みの日本企業は18%で、利用後進国です。世界一の通信インフラを持ちながらIT利用が劣後して、コロナで「デジタル敗戦」を認識した日本。次はAI敗戦でしょうか。

この点、半数近くの委員がAIについて触れているのは頼もしい。AI自動生成テロップシステムやAI☓NFTなど新しいプロジェクトも生まれているようです。アメリカで脚本家と俳優がストライキをする状況下、いかに日本の放送が取り込み、血肉としてチャンスに変えるかが問われます。

私は、コンテンツに対するAIの衝撃は、コンテンツの生産量が爆発的・無限に増えることと考えます。情報のほとんどがAIが生成するものになる。米ITプラットフォームがAI生成コンテンツを「AI生成」と表示すると言い始めています。すぐにそれをかいくぐるAIが現れるでしょうが、将来は逆に「ヒト生成」コンテンツが貴重品として表示されるのではないか。そんな時代を見据えて、コンテンツやビジネスのあり方を考える時期に来ています。

 


厄介なことに、デジタルとAIは同時進行です。デジタルから25年、AIから1年、うねり続きです。

ネット広告が4媒体を上回ったというのが昨年のトピックでした。この構図は、通信と放送の「融合」に反し、それらが対立する二元論です。それは通信側、ネット側が望んだものではなく、放送側が望んだ図です。放送が民と公とか、キーとローカルといった内部の二元論に執心している間に、壁を隔てた外部が成長した。

今回、日本テレビ手柴委員がレポートしたARMは、それに対する新しい回答に見えます。「放送とネットを広告セールスの領域で融合し、地上波でもネット広告と同様にリアルタイムなプログラマティック取引を実現すること、旧来の視聴率にプラスしてインプレッションの指標化をすること。」「民放が融合を前提としたビジネスモデルを組み立て、スポンサーのニーズを広く多様に吸収できるか、その試金石」。

これまで二元論とみていた世界がいよいよ融合し、自分たちの根幹であった広告も盤石でなくなる。NHKはネット配信を必須業務とし、NHKと民放による中継局の共同利用やネットによる放送波の代替など、制度・環境も改めて「融合」にドライブする。その中で、民放が自ら「融合」した市場を取りに行く構えが大事になります。

今回、ニュースのタテ型動画作成、課金プラットフォーム、VRなど新しい息吹も数多く描かれています。内山隆委員が解説するように、世界のメディア環境が激動する中に身を置き、次なる手を繰り出す。このプロジェクトに期待される姿勢が示されています。


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