■渡辺弘美さん「テックラッシュ戦記」。
経産省の官僚で、ぼくが経済産業研究所に招かれたとき担当としてお世話になった。
それからAmazonに転じての公共政策担当として15年の戦記。
すさまじい。
霞が関の中のひとだったからこそツボがわかり、企業益よりも公益が大きい仕事だからこそ成就していく。
日本企業にもデジタル系の公共政策担当・ロビイストはいるけれど、ここまで政府に食い込み成果を上げた人はいないんじゃないか。
デジタル市場競争会議の取引透明化法(公取、経産省、内閣官房)。電波法の技適証明緩和措置(総務省)。eコマースの課税(財務省)。EUの販売規制(外務省)。プラットフォーム消費者保護(消費者庁)。金融機関のクラウド利用(金融庁)。電子書籍の出版権(文化庁)。
国会対策もある。自民党だけでも経済産業部会、総務部会、情報通信調査会、競争政策調査会などなど。ブラッセルの外交チームやアメリカ・カナダなど国際対応もある。
そうだったのか。ぼくもいくつか関わった案件があるが、その裏側にぜんぶ渡辺さんがいたのね。
ロビイングに関し、私益を貪るマフィア的な見方があるけれど、この記録を読めば、官僚や野党議員よりも広範で重要な公益を追求する面があることが理解されよう。
しかもその担い手がアメリカのIT企業である点も大事。ぼくらは役人や日本企業や学者や和製メディアより、外資ロビイストを頼ったほうが自分たちにとって話が進むこともあり得るということ。
最後に、「日本の競争力低下は政府の失敗ではなく企業の経営の問題」とする冷静な分析が重たく響きます。
渡辺さん、戦い、おつかれさまでした。