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Channel: Ichiya Nakamura / 中村伊知哉
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推しエコノミー

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 ■推しエコノミー

「推しエコノミー」という言葉。

中山淳雄著「推しエコノミー「仮想一等地」が変えるエンタメの未来」で知りました。

アイドルやアーティスト、キャラなど自分の好きな「推し」を応援する行為「推し活」がパワフルな経済圏を創り上げています。


大好きな人やキャラクターの作品やグッズをいくつもいくつも買う。舞台やライブに足を運ぶ。踊る。声援を送る。なけなしのお金と時間を費やす消費であり、表現であり、生きがいとなる。

「推し活」は性別、世代を超えて広がり、2021年の新語・流行語大賞にもノミネートされました。


1980年代から認知されるようになった「オタク」には内にこもる負の風情が漂っていました。アイドルやキャラクターへの愛着を示す言葉として90年代に広がった「萌え」も内的です。

が、2000年代に台頭した推しに人生をかける人たちは行動的で外交的。堂々と胸を張っています。

 

推し活はデジタルが主体。コンテンツを消費しながら、スマホやブログ、SNSを使った第三者への表現が伴う行動。その点が昭和や平成のファンとの違いです。ぼくのわたしの独り占めにはせず、みんなに「推す」のであって、共感を呼びかけ共有を誘う。


ファン集団はライバルではなく同志。好きなものを鑑賞しつつ、体を動かしてリアルに参加し、デジタルで他者とシェアする。

これは今後の娯楽消費モデルであるだけでなく、厚い層のライフスタイルになるかもしれません。





これをリアルに描くのが2021年の芥川賞、宇佐見りん著「推し、燃ゆ」。

勉強もバイトもままならず生きづらさを抱える女子高生が年上の男性アイドルを応援することに全てのエネルギーを注ぐ。応援する対象「推し」が唯一のよりどころとなる。

切ない物語が多くの共感を呼んでいます。





この若き女流作家のフィクションに対し、横川良明著「人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた」は、若い男性アイドルにハマる中年オヤジの生態を描く。コミカルでリアルな自己分析です。




中山淳雄さんの本はビジネス面から分析します。

コンテンツはネット消費へと主戦場を移す。並行して、ライブでの体験ビジネスが広がっている。

しかもコンテンツは関連グッズなど商品化ビジネスが大きい。アニメは派生ビジネスが制作費の20倍以上あるという。


ファンに推されるアーティストや作家は、コンテンツの内容に加え、ファンとのコミュニケーションが重要となる。

コミュニティの熱量を高め、ブランドを形作ることがビジネスの基本となります。


米国はコンテンツ産業がディズニー、ワーナーなど5大グループに集約されました。テンセントら中国資本も世界展開を進めます。日本企業は太刀打ちし難い。

が、アニメ・ゲーム分野では世界に通用する豊富なキャラクターを持つ。その資産を活かし、ファンを巻き込む戦略を描けるのではないか。


先例が韓国です。K-POPは欧米でも確固たる地位を築きました。「パラサイト」、「梨泰院クラス」など映画やドラマも国際的なプレゼンスは日本を凌駕します。

官民を上げて推進した知財戦略の成果と言えるでしょう。


特に「BTS」のファン戦略は著名です。SNSなどを通じて英米圏にファンを獲得しただけでなく、友達のような距離感で双方向コミュニケーションを続けたといいます。

 



韓国の戦略は、カン・ハンナ著「コンテンツ・ボーダーレス」に詳しい。

ぼくもハンナさんと対談し、巻末に収められています。

コンテンツとファンとのコミュニケーションをいかに戦略的に結びつけていくか。

そのweb2手法はweb3にも受け継がれていくのかと。





(カン・ハンナさんには「学長くんガチョーン」でも語ってもらいました。

数学オリンピック韓国代表。からの来日、歌人となる。からのコスメブランド経営者。

からのメディア研究者として博士論文執筆中。つまり、天才。iU超客員教授。)

https://youtu.be/b8weze1V-6Y



コロナの巣ごもりはデジタルコンテンツの消費を拡大しました。

いったん沈んだライブの熱気も戻ってきます。

推しを核として熱いコミュニケーションが渦巻く無数のコミュニティ。

デジタルとライブのエンタメ銀河系が作られていきます。


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