Quantcast
Channel: Ichiya Nakamura / 中村伊知哉
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1187

情報通信白書「フィクションで描かれたICT社会の未来像」7/27

$
0
0
■情報通信白書「フィクションで描かれたICT社会の未来像」7/27

(2)「サンダーバード」~5号機の超高性能コンピューター

 1965年に登場したイギリスのテレビ映画「サンダーバード(原題:Thunderbirds)」の中にも、相互映像通信は登場している。

 「サンダーバード」は、「海底大戦争スティングレイ(原題:Stingray)」や「キャプテン・スカーレット(原題:Captain Scarlet and The Mysterons)」、「謎の円盤UFO(原題:UFO)」といったフィクション作品の製作でも知られる映像プロデューサー、ジェリー・アンダーソンが製作した連続テレビシリーズである。マリオネットに人間的な動作と表情を加え、リアル感のあるミニチュアセットを使った特撮で人形劇の新境地を開いた。

 日本では1966年からNHKが放送し、番組の人気とともに登場するサンダーバード機や秘密基地のプラモデルが子供たちの間でブーム化した。

 「サンダーバード」は放送当時から100年後の未来を設定している。2065年、土木建築事業で巨万の富を得た元宇宙飛行士のジェフ・トレーシーは、その資本を元に最新の科学設備を使って、事故や災害の救助にあたることを目的とした秘密組織、国際救助隊を設立する。国際救助隊のメンバーは、ジェフの5人の子供たちと姪のペネロープ、両親を亡くした後ジェフに育てられた天才科学者ブレインズである。

 ジェフの5人の子供たちはそれぞれサンダーバードと名付けられた救助用の最新鋭機を担当しており、長男のスコットは、超音速ロケット機のサンダーバード1号、次男のジョンは、宇宙に浮かぶ通信ステーションのサンダーバード5号、三男のバージルは、救助活動に必要な装備をコンテナに積んで運ぶサンダーバード2号、四男のゴードンは、陸上活動も可能な小型潜航艇のサンダーバード4号、五男のアランは宇宙ロケットのサンダーバード3号の乗員である。国際救助隊は、南太平洋上のトレーシー・アイランドに作られた秘密基地をベースに科学力を駆使して、SOSが発せられた難事件にあたる。

 「サンダーバード」では特にジェフの5人の息子たちが乗るサンダーバード機に人気が集まったが、番組の中にはこの他にも様々な未来の機器が描かれている。TVシリーズの第1話「SOS原子旅客機」は、脚部分に爆弾を仕掛けられて着陸ができなくなった超音速旅客機を、国際救助隊の先進メカを使って救出するストーリーだが、爆弾を仕掛けた悪役フッドは、スクリーン付の公衆電話機からロンドン空港に電話をかけて超高速旅客機に爆弾を仕掛けたことを伝える。フッドが正体を隠すためにスクリーンの機能をキャンセルした画面には『SOUND ONLY SELECTED』の文字が並んでいる。

 サンダーバード5号に乗り組むジョン・トレーシーは爆弾の対処を話し合う管制塔とコックピットとのやりとりをキャッチし、トレーシー・アイランドの基地に伝える。基地の司令室には、隊員の肖像画が飾られており、ジェフとそれぞれの隊員との通信時には肖像画の眼が光るとともにスクリーンに切り替わり、双方向の映像通信が開始される。

 放送当時、特に人気を集めたのは、国際救助隊の様々な救助用メカを運ぶ大型輸送機のサンダーバード2号だったが、第1話のように、多くのストーリーの起点となるのはサンダーバード5号である。サンダーバード5号は、太平洋上約3万6,000キロの静止衛星軌道上に位置する有人宇宙ステーションで、救難信号の受信と国際救助隊本部との連絡、救難現場における状況把握と国際救助隊の活動支援の役割を担っている。機体の外部には、レーダーやセンサーから探知されにくくするステルス機能の他、宇宙船や隕石との接触を事前に回避する軌道修正機能を搭載、内部には快適な長期滞在を可能にする人工重力発生装置が設置されている。

 メインルームである通信モニター室に設置されている大型コンピューターにより、地球や宇宙から発信されるあらゆる信号を傍受し、救難信号のみを自動的に選別して、録音できる。救難信号自動録音装置につながった大型コンピューターは、多様な言語で行われている通信を解析し、重要度によって選り分けた上で、緊急に対応しなければならないものに関しては緊急ランプを点滅させ、オープンリールに自動的に録音を開始する。

 前記したようにこの時代に制作された作品の多くで描かれたコンピューターの機能は漠然としたものだったが、「サンダーバード」では具体的機能として描かれており、現在にもつながっている。60分の長尺で1話が描かれる「サンダーバード」では、こうした仕組みが端折られずに描かれ、徹底したメカ描写が行われることで、リアリティが与えられ、視聴者が科学や未来について考えるきっかけとして重要な役割を果たしたと言える。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1187

Trending Articles